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Tsutsuba Taizan Photo Instruction +
※編集でも加工でも何でもできるデジタル画像の時代だからこそ、写真というものについて深く知る必要がある。
写真の力とは…
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総評 受賞者一覧
総評 (2019年)
■写真部門
常々思うことだが、日本人が撮る写真は叙情的になり過ぎる自らの感情のままに被写体と向き合っているか、もしくは被写体そのものにとらわれ過ぎていると思えるようなものが多い気がする。本来撮影者には、自分の世界に浸ることなく冷静に、あえて言えば傍観者のようにクールな視線で現実と対峙する姿勢が求められるものである。つまり写すこと以外の余分な意図は一切持たず風の様にさりげなく被写体と関わる神聖な意識感覚で被写体を迎え入れるということである。この心掛けにより自然と身についてゆく撮影姿勢は、被写体に多くのことを語らせる優れた写真を撮るうえで最も大切なことであり、映像のキャパシティーを大きくする唯一の方法である。あえてもう一つあげるとすればそれは、被写体からのメッセージを曖昧ではなくはっきりとした形で見る側に提供する写真力を引き出すための効果的なフレーミングのコツを掴むということになろう。
日々の暮らしの中で出逢う非日常的で偶然とも捉えることのできる一つの光景。その一つ一つは現実の不思議を象徴するものである。実際、現実ほど魅力的な世界はない。その現実を「一事実」として客観的に受け入れられたとき、人間社会を含むこの全自然界がつくり出す数々の不思議と出会い、それを写し撮った写真だけが持つえも言われぬ面白さを難なく享受できるようになるのである。
『写真力』展は、雰囲気の有無だけで優劣を競い合う初期段階からステップアップし、明らかにキャパシティーの大きさそのものを競い合うハイレベルなコンテストになってきている。入賞したものはいずれも光や形そのものに鋭く迫ったものだが、差し込む光やモノそのものの形に目が向くのは、抽象化への姿勢が明確になってきていることの表れを意味する。これは具体的な現象として現れている事物の皮相を捉えるといった撮影からの脱却であり、対象が持つメッセージを的確につかみとれている証でもある。写真が上手くなりたいと願う者であれば一度はかかる麻疹みたいなものだが、逆説的にいえばこの段階なくして先への成長はないと言ってよい。そしてやがてこの光や形への憧憬的なこだわりから抜け出せたときに、更なる世界が目の前に展開することだろう。
今回は題材として新しく且つ被写体の存在感と不思議な魅力とを見る側にアピールしてくる写真力の特徴を色濃く感じさせるものをあえて選んだ。その意味でも今回は出品者の多くに明らかな成長を見てとることができたと思う。日常に潜む非日常を的確に捉えるには、ありふれた被写体を写真として再構築することで特別なものに変えてゆく被写体との距離感を自分なりに身につけていくことが肝要になってくる。それを備えるカメラアイを培っていく努力を惜しまないでほしいと願うとともに、これからの精進に大きな期待を寄せるものである。
■作品部門
写真作品の場合は、写っているもの全体の内容と題名との組み合わせによって相乗効果が生まれてくるということへの理解をまだまだ深める必要があると強く感じた。つまり「写真+題名=作品」という形が成り立つということへの理解である。仮に点数計算をしたとすると2+3が相乗効果の結果7にも10にもなっている素晴らしい作品があった一方で、5+3が逆に6や4に目減りしてしまっている残念なものも目立った。実際には画像の内容に的確な題名をつけることは容易なことではなく、あまりにストレートなものは避けるとしても、含みと距離感を持たせ過ぎるあまり画像の内容から乖離してしまったのでは元も子もない。基本的には、写しとった事実から少しだけ距離を置く知的なタイトルを付けることから始めてみることだ。
そんな中で一席に選んだ計良秀実の題名は全く別の観点から衝撃的な印象をもたらす新鮮なものであった。「魚にあんこの入ったまんじゅうが食べたい」という写されている内容との関連性を全く感じさせないどころか繋がりそのものを完全に否定しているかのような題名である。然し乍ら一字一字を繰り返し丁寧に追いながら吟味していくといつの間にか「魚にあんこの入ったまんじゅう」とは、もしやたい焼きのことかなどと作者の意図を紐解こうと考えはじめる態勢に見る者を誘って行く不思議な魅力に満ち溢れているとも言えるのである。写真に限らず、これまで作品と言われるものの題名は簡潔明瞭が常とされてきたが、その疑うことさえなかった当たり前すぎる常識を大きく変えてゆくかもしれない一つの可能性が存在することを強く感じさせた。また題名には普遍性のある絶対的な強さが存在する必要がある。本間淑子の「消えた声」や本間 隆の「15年目」などは、記憶から決して消し去ることのできない過去との繋がりを回想させながら、心の中にレクイエムの炎を静かに滾らせてくる切ないまでの感傷的強さというものがあった。3点とも相乗効果満点の何れ劣らぬ優れた作品なのだが、新しい流れを感じさせるという意味で計良の作品は画像も題名も群を抜いていた。
尚、すでに講座や例会で評価を下したことのある画像は両部門とも審査対象から外したことを書き添えておきたい。
2019年「写真力」展 受賞者一覧
■写真部門(応募総数31名,236点)
『写真力大賞』 大越 祐子
『優秀賞』 小熊 美幸
『優秀賞』 谷川 彰
『優秀賞』 岩田 徹
TAIZAN賞 佐藤 明美
TAIZAN賞 竹田 清
■作品部門(応募総数26名,124点)
一席『魚にあんこの入ったまんじゅうが食べたい』W4切
計良 秀実
二席『消えた声』2L 本間 淑子
三席『15年目』 2L2枚組写真 本間 隆
TAIZAN賞「アフター」2L 米山 喜八郎
TAIZAN賞「末尾に付す」W4切4枚組写真 吉川 一直(
参加者 1号20名/2号9名/特待生7名 合計36名(30口)
分配金=3,000円