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HP企画展

個を主張できる内容を備えた写真を順次掲載

『イノチノカタチ』展

サトウ・アケミ展『イノチノカタチ 』に寄せて
 
 表現の世界にあって人より目立つ方法には二通りのやり方がある。一つは 秀でた技芸を身につけてそれをカタチにしてみせることであり、もう一つは 他人とは全く違うことをやってみせることである。
 秀でた技芸を身につけてそれをカタチにしてみせるとは、写真の世界であ れば高度なテクニックを要する撮影によってのみ得られるであろう画像を提 示してみせることであり、他人とは全く違うことをやってみせるとは、誰も 思いつかない対象を被写体に選ぶかもしくはそれまでにない斬新な撮影方で 新しい価値観に迫るかということである。
 今回とりあげた佐藤明美は、そのどちらにも当てはまらない言わば天才型 の表現者といってよい。彼女の活動は撮られる内容の異質さに比例するよう に他者から評価されることは極端に少なかった筈である。佐藤は、あたりま えに目にする身近なものにレンズを向けてシャッターを押すという単純作業 以外の表現行為は何一つおこなおうとはしない。俗に言うテクニシャンでも なければ奇をてらう変わり者でもないのである。あえて取り上げるとすれば その類稀なる造形感覚のよさ一点に尽きる。然し乍らそのことにすら佐藤は まったく気付いてはいない。見兼ねた私がアドバイスを加える形でこの13点 をようやく制作するに至ったという特別な事情がある。
 佐藤は自らのことを次のように語っている。「写真の魅力に取りつかれた のはこどもの頃です。色々な写真を見ることが好きですが、自分でカメラを持
って撮るようになってからは、植物にレンズを向けていることが圧倒的に多
くなりました。名前もわからない草、朽ちた花雨風に打たれた植物エリ
ートである植物ではなくエラーな植物に心ひかれます。気づけばそれ以外の
写真が撮れないという偏った状況になっていました。」
 エリートが選ばれるものであるとすれば、エラーは外されるものである。 人生において敗北を知ることは優しくも強くもなれる最良にして最短の道で はあるが、佐藤の人生はおそらく数知れぬ挫折の上に成り立つものなのでは ないだろうか。この作品群には底知れぬ慈しみの心が満ち溢れている。                            筒場 太山
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